
第4節 心の教育
共に生きる
正解の多様性を理解できない者は1つの正解を暗記する。マニュアルと上司に忠実で,違法行為や隠ぺい工作にも加担する。カルトでは教祖の奴隷となり,独裁国では反体制派を取り締まる。
有名な学校に入り,有名な会社に入り,そこで出世することが唯一の正解と考える人は身近にもいる。非正規労働者には「何で正社員にならなかったんだ?」と言い、ブラック企業の犠牲者には「何でそんなところに就職したんだ?」と言う。「おまえは馬鹿か?」が口癖のあの人は自らを正しいと信じ,他を否定する。その精神構造はテロリストと変わらない。
正解の多様性は第1章で論じた。異質な他者と共に生きる社会を構築しなければならない。
恥を知る
資産が少なくても,所得が少なくても,社会的な役割を果たす者は健全である。逆に,人権侵害や富の独占は恥である。恥知らずが恥ずかしくなるような社会通念は教育により確立する。
社会的矜恃(ノブレス・オブリージュ)は日本の武士道に近い。今は平等の時代であるから武士という階級はない。だが,武士道の精神はある。主君は主権者たる国民である。
人権を尊重し,富の再分配に努める人材の育成が重要である。富の再分配は第2章の1第2節で論じた。
未来に生きる
重大な人権侵害の場合,加害者が謝罪しても被害は回復しない。だから謝罪不要ともならない。被害者からの報復も許されない。それは医療事故や交通事故と同様である。
戦争による犠牲はテロリストを生み,テロ組織の掃討作戦が新たな犠牲を生む。負の連鎖である。
過去は変えられないが,未来は変えられる。憎しみを捨て,怒りを未来に向けよう。再発防止策は未来の課題である。被害体験はその作成に役に立つ。
15年11月のパリ同時テロで妻を失ったアントワーヌ・レリスはフェイスブックに「君たちを憎まない」と書いた。負の連鎖を断ち切る勇気は重要である。
未来志向は第3章第4節で論じた。